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原発と地球温暖化 横山裕道

原発と地球温暖化  「原子力は不可欠」の幻想

 横山裕道 著
  ダウンロード版     (B6版 282頁)  700円+税  グーグル
  印刷版(POD)    (B6版 282頁) 2,200円+税  アマゾン

  ISBN:9784907625436(ダウンロード)
       9784907625443(POD)
  2018年10月15日刊

地球温暖化と原発

我々が石油や石炭、天然ガスを使用することによって起こる地球温暖化がはっきりと姿を現し始めたようだ。2018年夏は北極圏を含め世界を激しい熱波が襲った。日本では豪雨、猛暑、度重なる台風の襲来と異常ずくめの夏で、気象庁は「異常気象の連鎖だ」と認めたほどだった。世界が協力して温暖化を防止しようとパリ協定ができ、いまや温室効果ガスの排出削減を効果的に進めることは国際的に最重要課題となっている。

 そこで問題になるのが原子力だ。発電時に二酸化炭素(CO₂)を発生しない原発は「温暖化対策の切り札」と宣伝されてきたが、チェルノブイリ原発事故に続いて東京電力福島第一原発事故が起きたように原発は安全性の問題が大きな弱点になっている。「温暖化防止は原子力ではなく太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーで」という声が日増しに高まり、実際に再エネは急速に普及している。本書ではこうした問題を幅広く取り上げた。

 第1章に架空ドキュメント「運命の2030年」を置いた。温暖化が高じ、超大型台風が首都圏やニューヨークを襲う。世界で洪水や干ばつが頻発する中で、中国で原発過酷事故が発生する。原発は停止に追い込まれ、代わって石炭火力へのシフトが進み、CO₂濃度は急速に高まり始める。さあ、地球の運命は?という近未来のあり得る内容だ。避難を強いられた原発事故の被災者とこれからどっと出てくる気候難民を重ね合わせ、原発も「気候の暴走」もない未来をつくるにはどうしたらいいかという考察も行った。

 本書では原子力を厳しい目で見ている。一方で電力需要の増加への対応と温暖化対策を両立させようと原発に頼る中国やインドと、原発事故への反省もないまま再稼働に走る地震国日本の置かれた事情は異なることを十分意識した。強固な「原子力ムラ」が存在する日本を含め世界の脱原発がそう簡単には進まないことにも言及した内容になっている。

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はじめに

我々が石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を使用することによって、大気中の二酸化炭素(CO₂)濃度が増え、地球がじわじわと温かくなっている。誰もが知っている地球温暖化である。この温暖化が進行すると、世界の各地で熱波や干ばつ、暴風雨、洪水、スーパー台風などが目立ってくる。異常気象というよりは極端現象の頻発によって、世界的に水や食料不足が深刻化し、大量の難民が発生するようになる。紛争や戦争も勃発し、世界は極度の混乱状態に陥るかも知れない。

地球温暖化についてこんなイメージを描いたとしても、どこかピンとこなかった。「異常気象なんて昔からあった。いまの異常気象が特別なものではない」というような冷めた声も聞く。ところが2018年の夏を経験し、温暖化の怖さを改めて認識した人が多かったのではないか。北極圏を含め世界を熱波が襲い、日本では豪雨、猛暑、異常台風と異常ずくめの夏で、気象庁は「経験したことのない暑さ」「異常気象の連鎖だ」とコメントしたほどだった。温暖化がいよいよ本性を現し始めた、と考えてもいいだろう。

こんな温暖化を防止し、気温上昇に歯止めをかけようと15年に国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)でパリ協定が採択された。温暖化防止のため、先進国と途上国が協力してCO₂をはじめとした温室効果ガスの削減に努め、産業革命前から21世紀末までの気温上昇を1.5~2度の範囲内にとどめようという合意がなったのだ。この実現には21世紀後半に温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にすることが不可欠だという。つまり石炭、石油、天然ガスの使用を一切やめるということだ。

それでは化石燃料の代わりに何を使えばいいのか、という問題が出てくる、候補は太陽光、風力、水力、地熱発電などの再生可能エネルギーと原子力の二つである。再エネには誰も異論がないだろうが、問題は原子力。チェルノブイリ原発事故に続いて11年には東京電力福島第一原発事故が起こった。放射能が福島周辺を広範囲に汚染し、事故から8年近く経たいま原発周辺に出された避難指示は大部分が解除されたものの、住民の帰還は進まない。政府が「もう安全」と言っても、低レベル放射線の健康への影響を心配する住民は少なくない。

「こんな原子力はこりごり。温暖化防止は再エネで」という声は当然高まっている。一方で「原子力抜きで温暖化を防止するのは無理。安全性に最大の配慮を払って原発を利用しよう」という主張は根強い。福島事故を起こした日本でも政府や大手電力は原発利用に固執し、大方の国民の反対を押し切る形で原発の再稼働を進めている。著名な米国の気候学者は「温暖化防止に原子力は不可欠」と述べ、原子力推進派を強力に援護する。

中国やインドはエネルギー確保と温暖化防止を両立させようと、原子力利用をさらに拡大しようとしている。「地震国日本の原発利用には反対だが、貧困を脱し、温暖化防止にも貢献しようという中国やインドに原発をやめなさい、とは言えない」と考える人もいるだろう。しかし、原発拡大路線を取る限りチェルノブイリや福島のような事故が再び起こり、環境汚染に加えて多くの避難住民に過酷な生活を強いるだろう。

原発利用と温暖化防止をどう考えたらいいのか、確かに悩ましい。本書ではこの問題に幅広い観点からスポットを当てようと考えた。
〈1章 架空ドキュメント「運命の2030年」〉では、世界的に温室効果ガスの排出削減がうまくいかずに熱波や洪水、干ばつなどの異常気象が頻発するようになった30年に、中国で原発過酷事故が起こって温暖化防止が振り出しに戻るというストーリーをドキュメント風に描いた。想像したくはないが、原発と地球温暖化に絡む近未来のあり得る姿である。

〈2章 二大原発事故が残したもの〉では、チェルノブイリ事故と福島事故が地元に何をもたらし、現状はどうなっているかをまとめ、〈3章 福島事故後の世界の原発は〉では、福島事故後に当事国日本を含め世界の国々は原発利用についてどう考えたのかを追った。〈4章 「原発で温暖化防止」の大宣伝の中で〉は、原子力ルネサンスのかけ声など推進側はあの手この手と手を打ち、原子力離れに歯止めをかけようと努めてきたことに触れる。

そして原子力がさまざまな弱点を抱えていることを描いた〈5章 実は危うい原発頼み〉、脱炭素社会を原子力の利用なしで実現できるのかに迫った〈6章 原発抜きで脱炭素社会を築く〉、温暖化防止はもう一刻の猶予もないことを記した〈7章 いまや温暖化防止は待ったなし〉と続く。

最後の〈8章 重なる原発事故被災者と気候難民〉では、二大原発事故で避難を強いられた被災者、中東やアフリカから欧州に押し寄せた難民・移民、今後どっと出てくる気候難民にスポットを当てるとともに、こうした人たちを出さないために原発も気候の暴走もない未来について考えた。

本書の副題は〈「原子力は不可欠」の幻想〉とあるように筆者は原子力には厳しい見方をしている。一方で原子力推進派の力も侮れないと考えており、簡単に脱原発は進まないし、原発抜きの温暖化防止は容易ではないことにも極力触れるようにした。ご批判をあおぎたい。
(文中のドルやユーロに関しては\rensuji{18}年9月初めの為替レートで円に換算した)

もくじ

はじめに
1章 架空ドキュメント「運命の2030年」
 1 パリ協定が動き出して10年後の2030年
 2 米パリ協定離脱の影響大きく
 3 原子力大国中国で原発過酷事故
 4 中国の難民受け入れとビッグニュース
2章 二大原発事故が残したもの
 1 現在進行形の東電福島第一原発事故
 2 いまだに尾を引くチェルノブイリ原発事故
 3 人間の健康や生態系への放射能の影響
 4 問題残した情報公開や事故の真相解明
3章 福島事故後の世界の原発は
 1 原発再稼働進める当事国日本
 2 福島事故で脱原発に向かった国々
 3 それでも原発に積極的な国が
 4 欧米やロシアの個別の事情は
4章 「原発で温暖化防止」の大宣伝の中で
 1 原子力ルネサンスのかけ声
 2 輸出にかける国々と世界で進む原発建設
 3 福島事故後も根強い原発推進論
 4 そう簡単には脱原発は進まない
5章 実は危うい原発頼み
 1 安全性が最大のネック
 2 すべての国が頭を悩ませる「核のごみ」
 3 核燃料サイクル政策は前に進まない
 4 廃炉などの問題も抱える
 5 メリット消えた原発をどう終焉させるか
6章 原発抜きで脱炭素社会を築く
 1 不可欠なエネルギー革命
 2 突出する日本の石炭火力頼み
 3 世界で伸びる再生可能エネルギー
 4 「うねり」を脱炭素社会につなげる
7章 いまや温暖化防止は待ったなし
 1 世界で頻発する異常気象・極端現象
 2 過酷な未来が待っている
 3 世界が何とか合意したパリ協定
 4 何が温暖化防止のカギを握るのか
 5 温暖化懐疑論に立ち向かう
8章 重なる原発事故被災者と気候難民
 1 将来が見えない福島の被災者
 2 チェルノブイリの避難者はいま
 3 原子力災害は半永久的に収束しない
 4 難民問題が世界の大きな課題に
 5 原発も気候の暴走もない未来へ
おわりに

著者紹介

  横山裕道 (よこやま ひろみち)
科学・環境ジャーナリスト。1944年仙台市生まれ。東京大学理学部卒。同大学院理学系研究科修士課程修了。69年毎日新聞社入社。科学環境部長兼論説委員などを歴任し、2003年淑徳大学国際コミュニケーション学部教授。同大客員教授を経て17年から18年3月まで同大人文学部教授。現在、環境省「国内における毒ガス弾等に関する総合調査検討会」検討員、埼玉県和光市環境審議会会長。日本環境学会、環境放射能除染学会、認定NPO法人気候ネットワーク、認定NPO法人環境文明21、日本科学技術ジャーナリスト会議各会員。中央環境審議会特別委員・臨時委員、埼玉県環境審議会会長などを務めた。著書に『いま地球に何が起こっているか 21世紀の地球・環境学』(ぴいぷる社)、『地球温暖化と気候変動』(七つ森書館)、『3・11学 地震と原発そして温暖化』(古今書院)、『いま地震予知を問う 迫る南海トラフ巨大地震』(化学同人)、『気候の暴走 地球温暖化が招く過酷な未来』(花伝社)『徹底検証!福島原発事故 何が問題だったのか』(化学同人、共著)などがある。千葉県柏市在住。

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