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沖縄戦将兵のこころ 保坂廣志

沖縄戦将兵のこころ-生身の捕虜調査-

 保坂廣志 著 A5版 232ページ

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沖縄戦将兵のこころ

 沖縄戦が事実上終結した1945年6月、米軍は捕虜になったばかりの「生身(なまみ)の捕虜(fresh POWs)」に対し、意識調査を行った。兵士らは、戦塵を振り払う間もなく、生死すら覚束ない状況下で戦場の話題や恥意識、戦後の日本のあり方等について答えている。戦場記憶を放出するほんの一瞬、自身の戦争を、戦場を語ったのである。ある意味で本調査は、回復困難な時代の精神が記録として残され、日本軍精神を今に伝える貴重な戦争遺産だと考えられる。
 これとともに、「沖縄日本兵に対する聴き取り調査」の結果も明らかにした。米軍は、日本軍心理を確かめるため比較的高学歴な兵士から聴き取り調査を行った。熾烈な戦場から生還できた兵士らは、自由に戦争観や天皇制等について意見を述べている。兵士らの答えは、軍人精神を表すとともに、国民一般の戦争観を表したものだろう。
 なお、本書は「沖縄戦捕虜の証言」(2015年、紫峰出版)と対をなすものである。捕虜尋問証言や意識調査に寄り添い、兵士の叫びやつぶやきが感じられるだろう。

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序文

 本書第 1 章は、沖縄戦が事実上終結した 1945 年 6 月、捕虜になったばかりの「生身の捕虜 (fresh POWs)」 358 人に対する米軍の意識調査をもとに、日本軍捕虜の「生の声」を分析しようとするものである。本調査は回答のみが記録に残り、肝心の日本兵の意識解明や内容分析にいたらなかった。本書では、通常の意識調査報告書同様の手法を用い、フルレポ-トにまとめた。

 第 2 章は、沖縄戦の「日本兵に対する聴き取り調査」の結果をまとめたものである。 45年 4 月 29 日、 (昭和) 天皇誕生日と軌を一にして米心理作戦班は日本軍向けの新たな心理作戦 (『琉球週報』撒布) を実施した。従来のプロパガンダ効果も含め米軍は、 5 月半ば、主として日本軍心理を解明するため素性の確かな比較的高学歴な日本軍兵士 8 人を集め、聴き取り調査を行った。熾烈な戦場から生還できた兵士らは、自由闊達に戦争観や天皇制等について意見を述べている。おそらく兵士らの答えは、軍人精神を表すものだけでなく、国民一般の戦争観を表したものだろう。

 2 つの調査は、沖縄戦の中期と後期の日本軍意識を代表するものだが、「生身の捕虜」調査は生死すら覚束ない状況下で実施されただけに、より一層兵士の心中が理解されるものである。調査を受けた兵士らは、それが何の目的で行われるのか全く知らなかったであろう。兵士らは戦場地から直ちに捕虜収容所に移送され、戦塵を振り払う間もなく調査表を渡された。

 全問に答え、それを収容所立会いの米軍将校に渡し、いよいよ生死を分かつ収容所に閉じこめられることになったのである。これを境に兵士らは戦場地からの「生還」者となり、生存者になったわけである。意識調査に答える捕虜の映像が米軍記録に残っているが、収容所到着間もない騒然とした状況から一転し、調査空間は清純そのものである。戦場記憶を放出するほんの一瞬、兵士たちは確かに自身の戦争を、戦場を素直に語ったのである。

 「生身の捕虜調査」は、戦場地での日本軍精神を実直に伝える戦争遺産だと考えられる。それは単に、戦場の針穴から這い出した将兵の心理が描かれているからだけではない。それよりは、回復困難なある時代の精神が、確固とした記録として丸ごと残されたからである。反面この精神遺産は、調査主体である米軍当局も含めて誰にも伝わらなかったものである。気持ちのままに記入した調査票は、回収不能な受取人不明のまま戦場地に取り残された郵便物のようなものである。兵士一人一人の主張
は、封書に入っているのは確かだが受取人が見つからないのである。そこで、戦場には立ち会わなかったが、激戦地沖縄を集合的記憶の源泉として記憶しようとする者なら誰でも調査票の受取人になってよいだろう。

 報告書の必然性から、兵士の言葉は数字に転化するが、それは叫びやつぶやきの類とでも思えばよいだろう。数字は、兵士多数の吐息のようなもので、五感を働かせれば感受出来るものであろう。また、あの凄惨極まる沖縄戦をコンパッション(共感・共苦)する一助として、関連記録映像をカット・イン(複写・挿入) した。ビジュアルな記録は、生身の捕虜に寄り添うもう一つの実話である。目を凝らし、兵士のつぶやきや心中を感じ取りたいと思っている。

もくじ

はじめに i
第 1 章 生身の日本兵捕虜の意識
 1.1 沖縄戦将兵の意識調査
  1.1.1 調査目的
  1.1.2 調査対象者
  1.1.3 調査方法
  1.1.4 調査期間
  1.1.5 調査票の構成
  1.1.6 その他特記事項
 1.2 フェース・シート (基本的属性)
  F1  調査対象者
  F2  年齢
  F3  未婚者・既婚者
  F4  教育歴
  F5  出征前の職業
  F6  所 属
  F7  徴集状況
  F8  軍役期間
  F9  本土を離れ軍務についた期間
 1.3 調査結果
  Q1  日本が戦争を始めた動機
  Q2  どこが勝利をおさめるか
  Q3  日本がアジアで戦う理由
  Q4  日本は米国との戦争を望んだか
  Q5  日本国民を誤った方向に導いたのは誰か
  Q6  日本政府の情報について
  Q7  陸・海軍の協力について
  Q8  米軍の捕虜取扱いに関して投降前の考え
  Q9  米軍の日本統治に対する日本兵の態度
  Q10  日本政府がすべきこと
  Q11  米国は公正で人道的な平和を保障するか
  Q12  天皇の権能について
  Q13  戦場の話題
  Q14  米軍宣伝ビラを見たことがあるか
  Q15  日本軍の恥意識 (甲乙対比法)
 1.4 考察
  1.4.1 大東亜戦争「聖戦」論
  1.4.2 米軍の捕虜の処遇について
  1.4.3 天皇の戦争責任について
  1.4.4 沖縄戦下の公的情報回路
  1.4.5 沖縄戦下の私的情報回路と流言蜚語
  1.4.6 沖縄戦参戦兵士の日本の将来像
 1.5 まとめ
第 2 章 日本兵に対する聴き取り調査
 2.1 はじめに
 2.2 聴き取り調査対象者
 2.3 聴き取り調査結果
  2.3.1 捕虜になっての反応
  2.3.2 戦争の原因について
  2.3.3 戦争の勝利国
  2.3.4 天皇に対する姿勢
  2.3.5 政治指導者について
  2.3.6 本土に住む民間人の不便さ
  2.3.7 兵士の不満
  2.3.8 投降に対する兵士の考え方
  2.3.9 特攻機に対する評価
  2.3.10 沖縄戦の現状に対する兵士の認識
  2.3.11 米軍プロパガンダの成果
 2.4 聴き取り調査のまとめ
付録
 資料 1  生身の捕虜調査結果
 資料 2  声の投降呼びかけ
脚注
おわりに
写真・図表の一覧
索引
 事 項
 人 名

著者紹介

 保 坂 廣 志(ほさか ひろし)}
   1949年 北海道生まれ
   1974年 東洋大学社会学部応用社会学科卒業
   1976年 東洋大学大学院社会学修士課程修了
   琉球大学法文学部講師、助教授、教授を歴任
   現在、沖縄戦関係を中心とした翻訳業に従事
   著書 戦争動員とジャ-ナリズム(1991、ひるぎ社)
      争点・沖縄戦の記憶(2002、社会評論社、共著)
      日本軍の暗号作戦 (2012、紫峰出版)
      陸軍 暗号教範(2013、紫峰出版、共編)
      新教程 日本陸軍暗号(2013年、紫峰出版、共訳)
      沖縄戦下の日米インテリジェンス(2013年、紫峰出版)
      沖縄戦のトラウマ(2014 年、紫峰出版)
      沖縄戦捕虜の証言(2015 年、紫峰出版)
      沖縄戦と海のモルフェー(2016 年、紫峰出版)

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