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科学哲学序説 石川史郎

科学哲学序説-測定理論による諸科学の統一

 石川史郎 著 B5版 290ページ
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科学哲学序説

 これまで物理学のような体系的な哲学を持たなかった、工学を始めとする諸科学。構築のヒントは意外にも量子力学の測定理論。これに範をとって、実在的科学観に対比すべき言語的科学観が打ち立てられる。大学4年生のゼミの副読本をもとに、易しい例を多数取り入れて、高校程度の学力があれば全体像が把握できるよう新たに書き下ろした。

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 本書の骨子(ダイジェスト版)は米国コーネル大学図書館のウェブサイトに
  「Measurement theory in the philosophy of science (S. Ishikawa)」
として公開されている。これを日本語版の書籍形式にしたのが、本書である。

 まえがき

 初めに題名についての説明をしておきたい.「科学哲学」とは,科学の形而上学的側面の研究であって特に本書の「科学哲学」とは,世界記述の哲学(すなわち,プラトンから,アリストテレス,デカルト,カント,ウィトゲンシュタインへ続く普通の哲学)のことである.したがって,倫理哲学,政治哲学,心の哲学等とは一線を画す.また,「測定理論」とは,諸科学・工学を記述するための特製の言語のことである.

 科学は,記述された知識であることを要件とすれば,文字が発明されて以降3000年以上の歴史を持つ.暦学,天文学が早くから成立した事からわかるように,世界の現象を数量的に記述すること(以下では,世界記述と呼ぶ)は科学の重要な関心事であった.これが中心的テーマとなったのは,ニュートンにより古典力学の体系が打ち立てられて以降である.物理学は,その後電磁気学,20世紀に入ってから相対性理論,量子力学の成立により,世界記述の中心的地位を確立した.

 一方,20世紀以降の今ひとつの流れとして,統計学,動的システム理論に代表される情報科学(または,形式科学)の勃興が挙げられる.情報科学はコンピューターというハードに支えられ,制御などの工学だけでなく,経済学,心理学,バイオなど数量的取り扱いが必要な分野で大きな役割を果たすようになった.

 このように,現実の諸問題の解決に不可欠な存在となった情報科学であるが,世界記述の視点からみると,物理学に比して甚だしく見劣りすると言わざるをえない.物理学が実在論的な科学観に裏打ちされた言葉で語られているのに対し,情報科学は特定の科学観をもたず,分野ごとにアドホックな言葉を使っているからである.

 このような状況は,当面の課題を個別に解決してきたという実績・歴史があるにしても,その先の展開を見据えた場合に問題があるのではないだろうか.本書は「測定理論」を確立し,それが情報科学ひいては工学を始めとする諸科学の共通言語たり得ることを示す.これにより工学・諸科学は,世界記述の方法として,物理学に比肩すべき立場を獲得することになる.

 「測定理論」の何たるかは,本文で順を追って詳しく説明することとして,図1で近世以降の世界記述の進展の中での「測定理論」の位置づけを示す.
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この図で,右上に点線で囲った部分が本書の提案である.図で示したように,「測定理論」は,言語哲学から「観念論的精神─言語が世界を構成」,動的システム理論・統計学から「数学的手法」,量子力学から「二元論的測定概念」を受け継いだ自然な発展であり,科学における言語的科学観に立つ.工学・諸科学のための言語的科学観は,物理学のための実在的科学観とならんで科学の2大自然観であると主張する.

 「測定理論」の確立が工学・諸科学に裨益するのは当然として,形而上学的立場を確立し得たわけであるから,世界記述の哲学(すなわち,プラトンから,アリストテレス,デカルト,カント,ウィトゲンシュタインへ続く本流とされている哲学)との関連も明確になる.また,誰もが知っている例としては,本書では2千年にわたって哲学者が議論してきた有名なゼノンのパラドックス「飛ぶ矢は飛ばず」(飛んでいる矢は各瞬間には静止している,静止している矢が飛ぶのは矛盾である)やエジソン少年が理解できなかったというエピソードに由来する「1+1=2」を測定理論の中で解決する.

 「測定理論」の導入は世界記述3000年の歴史の中の一大事件と考えるが,本書はその是非についての議論を喚起することになろう.こう書くと,読者は奇異に感ずるかもしれない.ある物理学者が,仮に「万物の理論」を作ったとしても,一般の読者がその是非についての議論に参加できるとは考えづらい.しかし,言語的科学観は物理学の実在的科学観とは異なる原理に立っており「承認の獲得方法」が異なる.「測定理論」は,多くの読者に語りかけ,実際に使われて初めて承認を得たことになるのである.

 本書の想定している読者は,高校卒業あるいは大学初年次程度の知識の所有者である.読める部分だけ読み進め全体のストーリーを把握し,余力があれば飛ばした部分に戻る,といった読み方を考えている.このため,全体的な見通しが利くように「本書のガイド」を付けたほか,技術的な面で躓かないよう,重要な部分はフィクションを交えて雑文風に書いたり,また,小中学生の問題を題材にしたり書き方を工夫した.また,数学用語の解説を巻末(付録B)に付けた.

 より高度の知識を持つ読者も歓迎である.理数系の大学4年生ならば,全体を困難なく通読できるだろう,大学院レベルなら,著者の論文[1--12]を直接読めると思うが,本書と併読すれば理解が一層深まって,研究成果も期待できよう.

 本書は,元は,著者の大学の研究室の4年次卒業研究のゼミ「(量子力学の数学的基礎としての)ヒルベルト空間論」の副読本として作成されたものである.「ヒルベルト空間論」という抽象数学が実際に役に立つことを手っ取り早く示すために,補助的テキストが必要と考えたのが当初の動機・目的だった.しかし,実際には,学生たちとの質疑応答の中で,むしろ彼等から教わることの方が多く,たび重なる改訂を繰り返したが,最近になり当初の目的,「大学4年次の学生にとって,難しくもなく,物足りなくもない」という水準に達した.この意味で本書は実質的には研究室の学生たちとの合作であり,本書の随所に注釈として学生たちとのヤリトリの跡を残した.「動機づけの誇張・フィクション化」,「重要なフレーズのしつこい程の繰り返し」や「一見無関係と思える雑談」等を敢えて削除・整形しなかったのも,研究室内では常に行われていることだからで,しかも,ゼミの学生たちがこれらを彼らのバランス感覚の中で中庸に理解できるということを実感しているからである.研究室の活性化のために最も重要なのは,「自分たちの研究が科学の基盤を揺り動かす」という空気が研究室に充満していることと思うからである.研究室の学生(卒業生)たちにはこの場を借りて感謝したい.

 また,著者の約二十年来の大学院の講義「数理解析特論(ヒルベルト空間論,特に,量子力学の数学的基礎)」において,数学だけでは伝わらない部分は,口伝で済ましてきたが,大学院生たちには「口伝の部分を,いつかは書き物の形にする」と約束してきた.かなり予定より遅れてしまったが,本書で約束を果たせた.

 最後になってしまったが,長年に渡って著者が自由な研究テーマに没頭することを許容してくれた職場(慶應義塾大学理工学部)の先輩・同僚に感謝する.また,紫峰出版の編集部の方々には,著者の雑多な原稿を整理して出版の形にしていただいた.この場を借りて感謝する.

目次

第Ⅰ部 概 要
第1章 量子論生まれの測定理論
 1.1 なぜ,量子力学からスタートするのか?
 1.2 一元論と二元論
 1.3 日常言語という無法地帯
第Ⅱ部 古典測定理論─連続・純粋型
第2章 言語ルール1─測定
 2.1 古典純粋測定
 2.2 言語ルール1─測定なくして科学なし
 2.3 測定の簡単な例
 2.4 工学・諸科学の時代
 2.5 コペンハーゲン解釈─測定は一回だけ
第3章 量子論から測定理論へ
 3.1 量子力学の速習
 3.2 ボルンの量子測定から言語ルール1へ
 3.3 シュレーディンガーの猫
 3.4 ハイゼンベルグの不確定性原理について
第4章 フィッシャー統計学 Ⅰ
 4.1 なぜ,統計学は諸科学で使われるのか?
 4.2 フィッシャーはボルンの逆を考えた
 4.3 測定理論による統計的手法
 4.4 ベイズ統計学
第5章 実践論理として
 5.1 いろいろな論理─日常言語の論理の危うさ
 5.2 擬積観測量と辺観測量
 5.3 含意─「ならば」の定義
 5.4 実践三段論法─ソクラテスは死ぬか?
第6章 言語ルール2─因果関係
 6.1 未解決問題─因果関係とは,何か?
 6.2 因果関係─火の無いところに,煙は立たない
 6.3 実現因果観測量─測定は一回だけ
 6.4 言語ルール2 「火の無いところに,煙は立たない」の正式な表現
 6.5「言語ルール1(測定)+言語ルール2(因果関係)」のいくつかの例
 6.6 二種類のトンデモ性─観念論と二元論
第7章 フィッシャー統計学Ⅱ
 7.1 表から見れば測定,裏から見れば推定・制御
 7.2 回帰分析─因果関係+フィッシャーの最尤法
 7.3 測定理論は言語だから,使われなければ意味が無い
第Ⅲ部 哲学としての測定理論
第8章 二元論的観念論の系譜の中で
 8.1 二元論的観念論の系譜
 8.2 「まえがき」の図1の再考
 8.3 補遺:日常言語について
第Ⅳ部 諸科学への応用
第9章 平衡統計力学
 9.1 平衡統計力学─熱力学の基礎
 9.2 平衡統計力学における「動的システム理論 vs. 測定理論」
 9.3 量子力学は,物理学か? 工学か?
第Ⅴ部 古典測定理論─有界・純粋型
第10章言語ルール1─測定
 10.1 状態と観測量─第一次性質と第二次性質
 10.2 有界型言語ルール1(測定)
 10.3 システム量─観測量の原型
 10.4 測定理論の中のコルモゴロフの拡張定理
第11章 言語ルール2─因果関係
 11.1 ゼノンのパラドックス─飛ぶ矢は飛ばず
 11.2 因果作用素,前双対因果作用素,決定因果写像
 11.3 有界型言語ルール2(因果関係)
 11.4 ブラウン運動は運動か?
 11.5 決定因果作用列の精密測定とシュレーディンガー描像
第Ⅵ部 まとめ
第12章 実在的科学観と言語的科学観 
 12.1 数学,物理学,諸科学・工学
 12.2 結論 実在的科学観と言語的科学観
付録A 測定理論の概要 大きな物語の終焉
 A.1 [もののけ世界観] → [力学的世界観] → [言語的世界観]
 A.2 事の発端 ハイゼンベルグの不確定性原理の発見
 A.3 始めに言葉ありき―言霊信仰
 A.4 力学的世界観(A) vs. 言語的世界観(C)
 A.5 大きな物語の終焉― 3000年のファイナルアンサー
付録B 数学的補遺

あとがき

著者紹介

石川史郎 (いしかわしろう)
 1971年 慶應義塾大学(理)工学部卒業 
 1974年 同学部助手
 1986年 同学部准教授
 2013年 退職 
 工学博士 専門 科学哲学、関数解析、量子力学基礎論

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