通俗と学術の間                                      

陸軍 暗号教範 伊藤秀美・保坂廣志

暗号教範  陸軍参謀本部編

伊藤秀美・保坂廣志 解説 B5版 262ページ
  ダウンロード版  1,000円   DL-Market  グーグル
  印刷版(POD)   2,950円   DL-Market   アマゾン  直 販

暗号教範

旧日本陸軍の暗号関係文書は終戦直後の組織的隠滅工作の為にほとんど現存しないといわれる。今回、偶々処分を免れた暗号将校の教則本とされる『暗号教範』、および本土決戦に際し千葉県九十九里の防衛に投入される予定だった範部隊(近衛第三師団)の『範部隊暗号運用計画』を復刻した。
理解を助けるため、陸軍暗号の技術および教育に関する解説を付けた。

  試し読み




まえがき

 太平洋戦争時の旧日本陸軍の暗号作戦の実態を、日本側資料に基づいて解明しようとすると、終戦直後の組織的隠滅工作のため著しい困難に遭遇する。 このことは、公刊戦史である戦史叢書シリーズに暗号関係の卷が収められていないことからも容易に想像がつく。 これまでに公になっているのは、ノンフィクション作家が旧軍関係者に取材したもの、旧軍関係者が回想録や座談会で述べたもの、旧軍関係者が数理科学の雑誌に技術的な側面について発表したものなどで、断片的と言わざるを得ない。
 日本側資料の欠落は米側資料により補うことができるが、これは暗号書などの鹵獲(ろかく)資料、通信傍受記録、捕虜尋問調書が主である。 このうち、硫黄島の暗号担当下士官の尋問調書や沖縄戦の通信作戦報告書からは、暗号の運用実態についてかなりの情報を得ることができる。
 しかしながら、これら日米双方の資料は整合的であるとは言い難い。 例えば陸軍暗号の米軍による解読に関して言えば、米側資料の詳細な解析からは解読が相当進んでいたことが判明し、旧陸軍関係者の主張とは異なる。 こうした食い違いの一因として、上記の日本側資料に資料批判の姿勢を期待すべくもなく、記述が旧軍関係者の主張に偏りがちであることが挙げられる。 やはり、日本側についても客観資料を積み上げて吟味する必要があろう。
 本書に収録した暗号教範はそうした客観資料の一つである。暗号教範は暗号担当将校の教則本とされ、陸軍暗号の要である乱数式暗号について、広範な内容を扱っている。 全体は総則、第一部、第二部に分かれる。 総則は、業務の重要性、業務に関わる者の心構えを説く。 第一部は乱数式暗号の基本が提示され、暗号書の作製、運用、業務指導、監督、調査統計を述べる。 第二部は、実務上必要な事項、暗号の組立、翻訳作業の実務、また勤務体制にあてている。
 暗号教範の内容がどのように消化され、実戦部隊でどのように運用されていたかは、陸軍暗号の実態を解明するためのもうひとつのポイントになる。 この点へのアプローチとして、本土決戦に際し、千葉県九十九里の防衛に投入される予定であった範部隊(近衛第三師団)の暗号運用計画案と関連資料を取り上げる。
 本書はこれら二つの資料-暗号教範及び範部隊の暗号運用計画案と関連資料-を復刻して収録したものである。 理解を助けるため補注のほか、1)陸軍暗号と暗号教範、および2)日本軍の暗号教育を加えた。 前者は陸軍暗号の技術的な側面に関しての、後者は、暗号教範を受講した暗号将校が各部隊に戻った後行った暗号教育に関しての解説である。本編および両解説は独立に読むことが出来、何れから出発することも可能だが、その前に約束事等をまとめた「本書のガイド」にざっと目を通していただきたい。
 原書は範部隊の暗号将校だった水野少尉が所持していたもので、解説者の一人(保坂)が古書店から入手した。水野少尉が原書を処分しなかった理由は不明だが、客観資料が残されたことは幸運であった。 その内容を公開する意義があると考え、復刻版を出すこととした。 さまざまな視点からこの資料が読み解かれることを期待したい。

もくじ

はじめに
本書のガイド
総則
第一部
 第一篇 暗号の構成及強度
  第一章 暗号の構成
  第二章 暗号の強度
 第二篇 暗号書の作製
  通 則
  第一章 編纂
  第二章 調製
 第三篇 暗号の運用
  通則
  第一章 暗号方式の選定、暗号区の設定及変更
  第二章 暗号書の整備
  第三章 暗号書の配布
  第四章 暗号書の更新
  第五章 非常時の処置
 第四篇 暗号業務の指導
 第五篇 暗号の監督
 第六篇 調査及統計
  通則
  第一章 原語使用度数に関する調査及統計
  第二章 組立翻訳作業に関する調査及統計
  第三章 電報に関する調査及統計
  第四章 通信に関する調査及統計
 付録
  用語の解
 付表

第二部
 第一篇 暗号書の使用
  通 則
  第一章 使用の基礎的事項
  第二章 使用一般の要領
  第三章 特殊の状況下に於ける使用
 第二篇 一般部隊に於ける電報班勤務
  通則
  第一章 電報班長の指揮
  第二章 業務分担
  第三章 位置の選定及設備
  第四章 電報の処理
  第五章 防諜保安
 第三篇 航空部隊に於ける電報班勤務
  第一章 司令部(本部)に於ける電報班勤務
  第二章 航空基地(飛行場)電報班勤務
  第三章 合同電報班勤務
 第四篇 電報班を編成せざる場合の勤務
  第一章 第一線部隊
  第二章 航空部隊
  第三章 気象部隊
  第四章 戦車部隊
  第五章 船舶部隊
  第六章 通信部隊
 第五篇 非常時に於ける暗号書の処理
  通則
  第一章 処理一般の要領
  第二章 戦闘間
  第二章 船舶遭難時
 付録
  其の一 暗号用字例
  其の二 暗号書の宰領
   通則
   第一章 陸路
   第二章 海路
   第三章 空路
  其の三 用語の解
 付表・付図

範部隊
  範部隊暗号運用計画(案)
   第一章 要則
   第二章 暗号区
   第三章 範部隊暗号書の運用
   第四章 部隊換字表の運用
   第五章 通信連絡報用暗号の運用
   第六章 非常時に於ける処置
   第七章 暗号要員の運用
   第八章 雑則
  範部隊暗号特別規定(案)
  範部隊暗号特別規定(案)の参考

補注

解説
  第1章 陸軍暗号と暗号教範
   1.1 はじめに
   1.2 資料
   1.3 陸軍暗号の概要
   1.4 実践書としての暗号教範
   1.5 範部隊の暗号
   1.6 おわりに
   付録A 陸軍暗号の種類
   付録B 暗号組立 - 実戦使用例から
   付録C 陸軍暗号略年表
   付録D 数理的補遺
   参考文献
  第2章 日本軍の暗号教育
   2.1 はじめに
   2.2 沖縄戦下での独立混成第44旅団の無線編成
   2.3 独立混成第15連隊の暗号補備教育
   2.4 独立混成第15連隊の暗号補備教育の内容
   2.5 おわりに
   脚注

解説者紹介

  伊藤秀美 (いとう ひでみ)
   1950年 三重県生まれ
   1973年 東北大学理学部物理学科卒業
   1978年 京都大学大学院博士課程中退 理論物理学専攻
   防災関係の仕事の傍ら戦史を研究
   著書 検証『ある神話の背景』(2012, 紫峰出版)
       船舶団長の那覇帰還行(2012, 紫峰出版)

  保坂廣志(ほさか ひろし)
   1949年 北海道生まれ
   1974年 東洋大学社会学部応用社会学科卒業
   1976年 東洋大学大学院社会学修士課程修了
   琉球大学法文学部講師、助教授、教授を歴任
   現在、沖縄戦関係を中心とした翻訳業に従事
   著書 戦争動員とジャ-ナリズム(1991, ひるぎ社)
       争点・沖縄戦の記憶(2002, 社会評論社, 共著)
       日本軍の暗号作戦 (2012, 紫峰出版)

powered by Quick Homepage Maker 4.81
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional