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検証『ある神話の背景』紹介記事

沖縄タイムス 2012年7月23日

「ある神話の背景」矛盾を暴く本出版
   戦史研究家・伊藤秀美氏

茨城県在住の戦史研究家、伊藤秀美氏がこのほど、沖縄戦時の渡嘉敷島でおきた「集団自決」(強制集団死)に「軍の命令はなかった」とする元戦隊長らを擁護した曽野綾子氏の著書「ある神話の背景」の矛盾点を暴いた「検証『ある神話の背景』」(紫峰出版)を出版した。曽野氏が依拠した「陣中日誌」が1970年に編集・加筆され、事実に反していることや、取材の方法や時間軸を緻密に比較し、問題点を指摘した。
 曽野氏が基礎資料とした「陣中日誌」は、渡嘉敷島の守備隊長で「集団自決」の軍の命令はなかったと主張した赤松嘉次氏率いる部隊の隊員だった谷本小次郎氏が、他の陣中日誌を基に70年に編集した。
 伊藤氏は「谷本版陣中日誌」と沖縄戦の公式発表を比較。「谷本版」が陣中日誌の公式の体裁をとっていないことや、集団自決と住民処刑に関する記事が書き加えられていること、米軍上陸時の状況などが「大きく書き換えられている」ことを指摘。基になった陣中日誌に比べ「改ざんと呼べるレベル」だとした。
 その上で「ある神話の背景」をめぐる曽野氏の言動を分析。「集団自決」を知る上で重要な人物に取材しないなど取材方法の問題点や、雑誌への連載から単行本化への過程での不自然な書き換えを指摘し「ノンフィクションとしては深刻な問題を抱えている」と批判した。また気象に詳しい伊藤氏は、曽野氏が「ある神話の背景」で島の女性4人にインタビューした際の情景描写「北斗七星は…大きく強く夜空に固定されていた」には「秋の北斗七星は沖縄附近では水平線下に沈んでしまう」と切り捨てている。
 伊藤さんは2007年に沖縄で勤務した際「集団自決」をめぐる意見の対立に触れた。沖縄を離れた後「どちらに分があるかを知りたい」と調査を始めた。本の執筆は初めて。「理系の論文しか書いたことがなく、面白みのない文章で気がひける」というが、緻密な論理展開は説得力を持つ。「本当のことをきちんと残したいと思った。今後も書いていきたい」と話した。

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