確率過程へのアプローチ 石川保志
確率過程へのアプローチ
石川保志 著
ダウンロード版 (B5版 227頁) 700円+税 グーグル?
印刷版(POD) (B5版 227頁) 2,300円+税 アマゾン
ISBN:9784907625719(ダウンロード)
9784907625726(POD)
2025年6月25日刊

ランダムな時間変動を記述する確率過程論の基礎から応用までを紹介
特色は、連続的な変動だけでなくジャンプを含む変動の取り扱いを含めたことにある。具体的には、ジャンプ確率過程の中から、為替相場の変動、損害保険数理などの経済的問題、確率共鳴、地震の発生サイクルや台風の進路など自然科学分野のほか、アマゾン書籍の売り上げランキングの変動など幅広い話題をとりあげた。
記述は数学的にはオーソドックスである。ブラウン運動とポアソン過程などから出発し、マルチンゲール理論の基礎の上に確率微分方程式を論ずる。細かい部分は成書にゆずり、例を通して全体像が掴めるよう記述した。
確率解析の応用に興味をもつ読者必携の書
まえがき
ランダムな時間変化を取り扱う数学を確率過程論という。世に確率過程論の成書は多いが、拡散に見られるような小さなランダム性が多数重なり合って起こる連続的な現象を主な対象としている。本書では、これに加えてジャンプ的なランダム性も考慮に入れる。
例えば、経済指標の発表に伴って株価が急激に変動すれば、それはジャンプ的な変動と見るのが自然だろう。また、近年集中豪雨と河川の越水が頻発するようになり、裾の重い(fat tailな)分布に関して関心が高まっているが、ここでは大きなジャンプ的な変動が大勢を決める。こうした一回大ジャンプの原理(principle of the single big jump)は、拡散現象(多数の小さなランダム性が中心極限定理に従う) とは本質的に異なる。
本書は愛媛大学理学部における「確率過程論」、大学院理工学研究科における「解析学IV」のために書いた講義ノートを基礎として、それらに加筆修正を施したものである。記述に当たって、重い証明は巻末文献に譲り、逆に例を多く取り入れて全体的流れがつかみやすくなるようにした。
確率過程論は1970年代以降にフランスのメイエ(P. A. Meyer)が整備したマルチンゲール理論を使うと全体が見通しよく理解できる。ブラウン運動、ポアソン過程、安定過程等われわれがよく目にする確率過程はすべてこの範囲に入る。本書もこのアプローチをとる。全体的構成は、イントロダクション(1章)において 20世紀までの確率に関するいくつかの見方を述べる。その後に完成したルベーグ積分論において可算ないし連続空間での確率の計算が厳密にできるようになる。以下でルベーグ積分(2章)を準備して、後の議論で活用できるようにする。ルベーグ積分論は階段関数の積分を基礎においており、ジャンプ過程の解析の道具として向いている。3章でブラウン運動、ポアソン過程を導入し、4章でそれらの枠組みの基礎となるポアソンランダム測度とウイナー測度について解説する。
ルベーグ積分とブラン運動、ウイナー測度を使うと確率理論の動学化ができるようになる。5章はマルチンゲール理論と確率微分方程式(SDE)の概観であり、6章はウイナー測度を使った確率解析で頻用される伊藤の公式の紹介と証明である。7章ではポアソンランダム測度を用いたジャンプ過程の日常的応用として損害保険理論を取り上げた。3, 4, 5, 6章における数学的記述はルベーグ積分の枠組に基づいている。確率微分方程式は事象のモデル化に便利な道具である。本書では取り上げるジャンプ過程を確率微分方程式で定式化した。
日本の中世には、各地の塩田でとれる塩、塩田を維持する工具や材料などを乗せた船が瀬戸内海を往来した。それらの船は西日本の経済の動き(モノや情報)をよく把握し、やがて河野水軍、村上水軍として各地の大名に一目置かれるようになった。瀬戸内海の物資輸送は、時代を経て北前船に進み、今治、西条、尾道などの造船、海運業による世界のコンテナ船の動きにつながっている。経済の動きを把握することによって、各々の商品特性がよく分かるようになるのは、今も昔も変わらない。数学でもその概念がどう使われるかを理解することによりその概念の理解が深まることがあるだろう。
愛媛県松山にて、2025年3月
石川 保志
まえがき
第1章 基礎概念
1.1 確率とは何か
1.1.1 ラプラスの先験主義
1.1.2 フォン・ミーゼスの客観主義
1.1.3 カルナップの必然主義
1.1.4 ド・フィネッティの主観主義
1.1.5 数学としての確率
1.2 確率空間
1.2.1 独立性
1.2.2 条件付き確率
1.2.3 ボレル・カンテリの補題
1.3 可測空間
第2章 ルベーグ積分
2.1 確率変数とその期待値
2.2 モーメント母関数と特性関数
2.3 ルベーグ式積分
2.3.1 可測関数
2.3.2 収束定理
2.3.3 フビニの定理
2.3.4 完全加法的集合関数
2.3.5 ラドン・ニコディムの定理
2.4 大数の法則と中心極限定理
2.5 確率論と測度論の対応
第3章 確率過程
3.1 確率過程の基本概念
3.2 時間平均と事象平均
3.3 標本路が連続なモデル
3.3.1 直線運動
3.3.2 ガウス過程
3.3.3 ブラウン運動
3.4 標本路が不連続なモデル I
3.4.1 ポアソン過程
3.5 標本路が不連続なモデル II
3.5.1 再生過程
3.5.2 複合ポアソン過程
3.6 実際の例
3.6.1 地震サイクルモデル
3.6.2 再生報酬過程
3.6.3 欧州為替相場メカニズム
3.6.4 アマゾンの書籍売り上げランキング
第4章 ポアソンランダム測度とウイナー測度
4.1 ポアソンランダム測度と L´evy 過程
4.1.1 レヴィ過程の例
4.2 ウイナー測度とブラウン運動
4.3 ポアソン過程の構成
4.4 安定分布と安定過程、 レヴィ過程
4.5 ウイナー過程の積分 (簡単な場合)
第5章 マルチンゲールとセミマルチンゲール
5.1 ルベーグ積分論からの準備
5.2 正則条件付き期待値
5.3 マルチンゲール
5.3.1 Doob の不等式
5.4 セミマルチンゲールに関する確率積分
5.4.1 セミマルチンゲールに関する確率積分
5.4.2 Mt = Wt がブラウン運動の場合
5.4.3 2次変分過程
5.4.4 レヴィ過程の場合
5.5 ジャンプのある伊藤過程と SDE
5.6 SDE の解の表現
5.6.1 一意的な強い解
5.7 連続型過程の場合
5.7.1 田中の公式
5.7.2 連続型 SDE の解法
5.8 ジャンプ型過程の場合
第6章 伊藤の公式
6.1 伊藤の公式
6.2 伊藤の公式 (確率積分の変換公式) の定式化と証明
第7章 損害保険数理
7.1 サープラス過程
7.2 破産確率の計算例
付録
A.1 主な確率分布
A.2 いくつかの組み合わせ論的等式
A.3 練習問題と問の略解
あとがき
参考文献
索引
著者紹介
石川保志 (いしかわ やすし)
1959年 栃木県生まれ
1983年 筑波大学第一学群自然学類卒業
1988年 筑波大学大学院博士課程単位取得退学 博士 (理学)
1999年 愛媛大学理工学研究科准教授
著書
Stochastic Calculus of Variations : For Jump Processes,
De Gruyter Studies in Mathematics 54, 2016, 2023